危ないから止めるんじゃない、未来を拓くために止めるんだ – 大飯原発再稼働について

 

大飯原発再稼働を止めるために現地に足を運んだみなさま、本当におつかれさまでした. そしてありがとうございます.

みなさんのようには行動できなかった・しなかった私は、せめて自分なりの知識を深めよう. そう思った私はこの週末、原発関連の本を読みあさっていました。

最初に言っておくと、私は大飯原発にも首相官邸前のデモにも行ってません. 震災後に地元でも何度かあった原発反対のデモやパレードにも参加したことがありません. もちろん原子力発電やエネルギー問題に専門的な知識があるわけでもありません.

デモの参加者(一部の人です) が「電気なんていらない!」と叫んでるのを見て、「いやそれは違うだろ」と思ってました. 「経済よりも命」. それはたしかにそうですが、いまこの国に生きる私たちが享受している (少なくとも物質的には) 豊かな生活は、日本経済があってのこと. そのことを無視した議論には意味がない、そう思ってました. 原発は止めたい、やめるべきだと心情的には思っていても、代わりの電気はどうするんだ、代替となる電力源があるのか、電気を必要とする家庭や企業はどうする… と考えるうちに、果たして本当に今、原発を止めることがよいことなのかと迷い、具体的な行動をとれずにいました.

今回の大飯原発の再稼働に対して、多くの人が身を賭して反対の意思を行動で示しているのを見て、そうした行動をとらなかった・とれなかった自分は、せめて原発問題やエネルギーに対する問題についての知識を深め、自分の頭でもっともっと深く考えないといけないのではないか、そう強く思うようになりました. そんな中で、私にとって特に興味深かった一冊、北澤宏一著「日本は再生可能エネルギー大国になりうるか」を紹介したいと思います.

 

“日本は再生可能エネルギー大国になりうるか (ディスカヴァーサイエンス)” (北澤 宏一)

この本は、日本学術会議の「東日本大震災対策委員会 エネルギー政策の選択肢分科会」が2011年の9月にまとめた「エネルギー政策の選択肢に係る調査報告書」の内容をまとめたものです. 著者の北澤氏は福島原発事故の民間調査委員会委員長、東大名誉教授で科学技術振興機構(JST)の理事長を務めた方だそうです.

「エネルギー政策の選択肢に係る調査報告書」は、日本の電力をまかなうエネルギー源の配分を 今後数十年のスパンでどのように変えていくべきかを調査・検討した報告書です. 原発を今すぐすべて止める、すなわち大飯原発再稼働前の状態を続けて他の代替手段に活路を見出そうとした場合から、CO2排出が少ないエコな発電方法として原子力発電を推進していった場合まで、原発の位置づけの違いによる6つのシナリオごとに、それぞれ予想されるコスト、国民の負担の変化、社会への影響などが考察されています. 70ページほどのPDFとしてネット上で公開されているので、誰でも目を通すことができます.

これらのシナリオの中で、私たちがそうであってほしいと願うシナリオ=すべての原発を今すぐ止めた場合のシナリオ(報告書の中の名前をそのまま使って以下シナリオAとします)について、報告書および上記の本の内容を自分なりにまとめてみます。

ほとんどの原発を止めている現在、不足する電力を補うために火力発電所の稼働率を高め、化石燃料の消費を増やしています. 当面の電力不足は補えたとしても、地球温暖化の問題を考えると、再生可能自然エネルギー(風力、太陽光、バイオマス、地熱 etc)の割合を増やしていく必要あるのは自明です。原発を全面的にストップしたまま、短期的には火力発電で電力をまかないつつ、少しずつ再生可能エネルギーに置き換えていく…

このシナリオAをとった場合の想定されるエネルギー源の内訳の変遷がグラフとしてあがっていました (以下、転載).  2020年ごろには、現在原子力発電で頼っている発電量を再生可能エネルギーに置き換えることができる、と読むことができます. 当然、二酸化炭素の排出量も原発が稼働していた頃以下のレベルに押さえることができます.
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そこで、気になるのは、このシナリオを実現するためにどのくらいコストがかかるのか、 このシナリオにどのくらい現実味があるのか? という点です.

この疑問にも試算があがっています. 昨年一年間で追加の化石燃料の輸入に約4兆円のお金がかかりました。それに加えて、毎年「約5兆円」を再生可能エネルギーと省エネ技術の開発・設備投資に投資する必要があるという試算です.  5兆円、国民一人当たりになおすと約4万円です. ちなみに日本のパチンコ産業の売り上げは年間25兆円. そう考えると、5兆円という額はけっして無理のある数字ではないはずです.

上記の本の中では、島国日本の広大な領海を活かした洋上風力発電や温泉大国日本ならではの地熱発電のポテンシャルについて、「再生可能エネルギーによって日本はエネルギー輸出国になりうる」という見通しさえ述べられています.

 

これには本当に驚きました. 太陽光発電や風力発電などのクリーンな発電によって、電力を十分安価で安定して供給できるようになるのは、まだまだ先の未来の話… しかも国土の狭い我が国で太陽光パネルや風車を設置する十分な場所を確保するのは難しいし、天文学的な数字の予算が必要になるはず、そんな風に思っていました.

しかし、特にこの10年、再生可能エネルギーの発電効率が飛躍的に伸びたことで、事情は大きく変わってきているようなのです. 現在太陽光発電の発電コストは1kW/hあたり13円〜23円、風力発電では4〜15円(2011年発表 RenewableS 2011 GLOBAL STATUS REPORTによる)だそうです. 日本の原発は公称1kW/hあたり5円かかるとされているようですが、実際には地方自治体に払う補助金などを加えると10円強かかると考える方が現実的といわれています. そう考えると、決して遠い数字ではありません.

先日日本でもようやくはじまった再生可能エネルギーの電力の総量買い取り制度での買い取り額は、1kW/hあたり42円. 推定されるコストとは大きな差がああるため、こうした再生可能エネルギーの発電は儲かる事業になりうるわけです. ドイツなどで始まったこうした買い取り制度によって、再生可能エネルギー発電の技術開発に市場の原理が働き、莫大な投資が集まりました. こうしてアメリカや中国、ドイツなどの国や企業からの莫大な投資を背景に、再生可能エネルギーに関する技術は加速度的に発展しつつあるのです (つい最近まで日本の再生エネルギーに対する投資額が国民一人当たりで中国以下だったそうです).

再生可能エネルギーへの投資の詳細(想定される発電所設置場所やそれにかかるコスト予測の根拠)については報告書の中には書かれていませんし、楽観的すぎるのではないかと勘ぐるむきもあるかとは思います. ただ、再生可能エネルギーによる電力供給は決して夢物語ではなくなったということだけは言えるのではないでしょうか。

本の中で印象的だった一節に「もしこの事故が2000年に起きていたら、脱原発路線をとることはできなかっただろう. 再生可能エネルギーの発電効率が飛躍的に伸びた今だからこそ、原発から再生可能エネルギーへと大きく舵を切ることができる」という文がありました.

今、原発を止めて再生可能エネルギーと省エネに投資することは、新しい産業と雇用を生むだけではなく、間違いなく今後世界中で必要とされるであろう技術で世界のリーダーになるチャンスにつながります. そう、「チャンス」なんです.

再生可能エネルギーに率先的に取り組むことは、原発事故で国際社会に迷惑をかけた日本にとっての責務とも言えると思います. そう考えると、今後の日本、そして私たちが進むべき道が見えてくるように感じませんか? 今、このタイミングをチャンスととらえ、新しい日本をつくっていくためにも、やっぱり原発は止めませんか?

原発の危険性を主張することに加えて、原発を止めることが日本の経済・社会にもたらす「ポジティブな側面」にもっともっと焦点をあてていかなければならない、そう思っています.

「危ないから止める」から、「未来を拓くために止める」へ.

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今までこのサイトでこうした文章を書くことはありませんでした。でも、どうしてもどうしてもみなさんに伝えたくて、こうやって記事を書きました。

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